【春闘特集3 企業の社会的責任(CSR)とは?】


1、「企業の社会的責任」(Corporate Social Responsibility=以下、「CSR」)が問われる時代

 最近になって、食品の偽造表示やリコール隠しなど、企業の不祥事のニュースを多く聞くような気がします。不祥事の多くは、命や健康、安全に関るものであり、消費者の信頼を裏切り、それ自体、許されるものではありません。このような不祥事のために売り上げが落ち、企業経営自体に大きなマイナスになった例が多くあり、企業経営として考えても、消費者の信頼を裏切ることは当たり前ですが許されません。

 同じく最近、「社会的責任投資」(Socially Responsible Investing=以下、「SRI」)、つまり、社会的責任を果たしている企業(例・環境に配慮している、児童労働を禁止している、など)に投資しようという傾向も、投資家にかなり広がっています(実際、そういう企業に投資した方が、多くの収益を上げられるというデータもある)。投資家から資金を集める意味でも、企業の経営には、単に収益を上げるのでなく、人権や環境に配慮することが重要になっています。

 このように、企業経営には、会社の関係者としての使用者、従業員、株主・投資家以外に、会社の外部でも、取引先、地域社会、市民団体、環境、人権などが、密接に関係しています。この、企業に関係する利害関係者(ステークホルダー)に対して配慮しながら経営を行おうというのが、今言われている「企業の社会的責任」(CSR)の概要です。


2、「企業の社会的責任」(CSR)が「ISO」規格に

 「企業の社会的責任」(CSR)が、特に最近になって取り上げられるようになった要素には、上記のような問題以外にも、「CSR」が国際規格化されようとしていることもあげられます。企業広告を見ると、「ISO9001」、「ISO14001」などの規格を取得していることを示しているものもありますが、その「ISO」(国際標準化機構)で、2007年にも「CSR」が規格化されようとしています。

 もし、国際規格化されると、「平等な条件による自由競争」を求める「WTO」(世界貿易機関)などは、この「CSR」に関する「ISO」規格を持たない企業は国際貿易に参加させない、と主張する可能性が高くなっています。例えば、「WTO」は、「児童労働」は「平等な条件な企業経営でない」ということで、そのような企業を批判しています。それだけに、国際貿易では、「CSR」に関する「ISO」規格の遵守も求められる可能性があります。

 日本の財界は、2004年6月に「ISO」(国際標準化機構)が決定した、「CSR」に関するガイドライン策定に反対するなど、消極的な対応をしていました。国際規格化されようという時期になって、若干、日本経団連は動きを変え、「企業行動憲章」の遵守を各企業に求めるという形で、「CSR」の徹底を求めています。が一方で、財界は、@企業の多様性を尊重すべき、A企業の自主性を尊重すべき、B企業に過度の負担とならないものとすべき、と提言しているなど、「企業の社会的責任」(CSR)への対応を、一切の社会的規制や強制措置を排除し、個別企業の自発性任せにしようとしているのが、現実です。


3、これからの「企業の社会的責任」(CSR)とは?

 これから「ISO」で企画される「CSR」を考える上で、一つの材料となるのは、2000年に発行された「国連グローバル・コンパクト」です。これは、アナン国連事務総長がグローバリゼーションの恩恵を世界中の人々が享受するために、世界中の財界の人に求めた提案で、以下の9原則からなります(以下の記述は概要)。

 (人権)@国際的に保護された人権の支援・保護、A人権侵害をしない (労働)B結社の自由を支持し、団体交渉権を保障、C強制労働を撤廃、D児童労働の廃止、E雇用・職業差別の撤廃 (環境)F環境問題に配慮、G環境責任の促進、H環境上好ましい技術の開発・普及をすすめる

 また、あまり知られていませんが、「SA8000」(社会的責任説明)という、ILOや国連の人権条約にも準拠した、労働者の権利保護に関する世界基準の企業行動規範があります。これは、特に途上国における不公正かつ非人道的な労働慣行を撤廃することを目的とした人権や倫理では初めての規格であるなど、労働者の人権分野を規定しています。

 ヨーロッパでは、「企業の社会的責任」(CSR)として、失業者を出さないことが強く求められているのが特徴です。多くの雇用を抱え、地域経済に大きな影響を与える工場のリストラをおしすすめた、日本の企業とは対照的です。「EU」では、2002年に「EUホワイトペーパー」を発表し、「EU マルチ・ステーク・フォルダー・フォーラム」の設置を決め、「EU」の政策にも、「CSR」を反映させようとしています。この「EU マルチ・ステーク・フォルダー・フォーラム」には、労働者側から企業に「CSR」を果たさせるべく意見を表明できるよう、欧州労連(ETUC)が正式メンバーになっています。

 今、日本では、書店に多くの「CSR」に関する本が並んでいますが、その大半が経営者向けです。内容は、「コンプライアンス」(法令遵守)や「環境」に多くの記述を割いているのが特徴です。しかし、企業経営をする上で、「法令を遵守すること」や「公害を起こしたり、環境破壊をしないように配慮すること」は、そもそも、当然のことです。

 そうでなくて、まず、企業が労働者に対して(国や自治体の場合は、公務員に対して)、人間らしい生活ができる雇用、労働・生活条件を保障することが大事でないでしょうか? 例えば、サービス残業を正す、労働時間を短縮する、最低賃金を引き上げる、非正規雇用従業員の賃金を上げる、年金などの社会保障を充実させる、などの方策です。
 また、これらのものは、待っていても実現しません。一方で、私たちの側も、これらのものがを求めていくことが大事です。基本的人権を守っていくこの運動は、同時に、憲法を守り生かしていくことでもあるのです。